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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)673号 判決

被告人

磯村芳雄

主文

本件控訴は之を棄却する。

当審に於て生じた訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

弁護人岡崎基名義控訴趣意書の控訴の趣意は、

本被告事件の第一審第三回公判調書に依ると弁護人の「本件の事は皆初めから相手方を騙す考えだつた樣に調書上はなつてゐる樣だが其通りか」との問に対して被告人は「当時としては左樣な考えはなかつたのでありますが警察にてこうだと云はれた樣になつたのであります」と答へてゐる

右被告人の供述が事実であるならば被告人の司法警察員に対する各供述調書は新刑事訴訟法第三百十九條に所謂強制に依る自白であり少くとも被告人の右各供述調書に於ける供述は被告人の任意になしたものでない疑のあるものであるから右第三百十九條若くは同法第三百二十二條の規定に依り証拠となす事を得ないに拘らず原判決は之等証拠となす事を得ない被告人の供述を録取した司法警察員作成の供述調書を証拠としてゐるので新刑事訴訟法第三百十九條若しくは同法第三百二十二條に違反する即同法第三百七十九條に所謂訴訟手続に法令の違反がある場合に該当するものである依而原判決は破棄せらるべきである。

と謂うに在るけれども

本件訴訟記録に添綴されて居る被告人の司法警察員に対する所論各供述調書を閲すると、同各供述調書に付いては、孰れも被告人が其の記載内容を読み聞かされて夫れに誤のないことを申立て、且署名指印して居る事実が明らかであるから、該事実に照らし、論旨摘発のような原審第三回公判調書中の被告人の供述は輙く措信し難く、其の他に所論各供述調書が所論のような強制に基く被告人の供述を記載したものと認めるに足る証左は毫もなく、剩え被告人が原審公判期日に於て所論各供述調書を証拠とすることに同意したことは、原審第二回公判調書の記載に依り之を窺知し得るから、所論各供述調書も亦刑事訴訟法第三百二十六條第一項に依り之を証拠と爲し得るものと謂わなければならぬ。而して所論各供述調書に付原審公判期日に於て適法な証拠調手続が履践されて居ることは、原審第三回公判調書に依つて明らかな本件である以上、原判決が所論各供述調書を採証の用に供したのは、曩に説明したと同一の見解に出でたものであつて、洵に正当であり、此の点に関し原判決に所論のような違法の廉があることは、毫も之を発見し得ないが故に、論旨は其の理由がない。

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